研究内容

細胞骨格と細胞外マトリックス

細胞骨格とは細胞内で合成される線維状のタンパク質で、細胞の形態維持や細胞運動, 細胞内における物質の輸送など多くの事象に関わっている。一方、細胞外マトリックス(extracellularmatrix, ECM)は同じく線維状の構造を持つタンパク質であるが、細胞内で合成された後に細胞の外に分泌されて機能している。ECMタンパク質は結合組織に豊富に存在し、組織の形態維持に必須である。細胞はECMを足場としてその上を移動し、特定のECMと接着することで組織内の定められた位置に配置される。このように、細胞骨格と細胞外マトリックスは、存在部位こそ異なるもののその形状や機能の多くが共通しており、細胞運動や多細胞体制の維持に不可欠な分子群である。

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MRTFによる細胞骨格、ECMの発現制御

細胞骨格やECMタンパク質は根源的な分子であり存在量も非常に豊富であることから、その発現量制御に関してはあまり注目されてこなかった。しかし、発生過程や様々な疾患において、これらタンパク質の発現量が大きく変化することがよく知られている。私は、これらの発現を制御する転写因子としてmyocardin-related transcription factor(MRTF)に着目し解析を行っている(J. Cell Biol. 2007, Exp. Cell Res. 2007)。これまで、MRTFが100以上もの細胞骨格、ECM関連遺伝子の発現を統括的に制御することで、細胞運動や発生過程に深く関与していることが明らかになっている。また私は、MRTFの活性を制御する因子としてthymosin-?4(T?4)を見出し報告した(Biochem. Biophys. Res. Commun. 2013)。MRTFのN末端には単量体アクチンとの結合部位が3カ所存在し、アクチンと結合したMRTFは細胞質に留まり活性を持たない。アクチン重合などにより細胞質中の単量体アクチン量が減少すると、アクチンと解離したMRTFは核内へと移行して転写因子SRFと共にターゲット遺伝子の発現を強力に誘導する(下図参照)。T?4は単量体アクチンと結合することでMRTFとアクチンとの結合をブロックし、その結果MRTFの核内移行と活性化を誘導する。これまでの解析から、T?4-MRTFシグナルが様々な疾患に関与することが示唆されている。

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T?4-MRTFと疾患

細胞骨格やECMが細胞運動と密接に関係していることは既に述べたが、これは正常な発生過程だけでなくガン細胞の浸潤?転移過程においても同様である。これまで様々な研究グループからMRTFの活性化がガン細胞の転移を促進することが報告されており、実際に幾つかのヒトの癌種では、がん患者の予後とMRTFの発現量との間に明確な相関関係が見られる。T?4もまた多くの癌種において発現亢進の見られる遺伝子であるが、私はT?4がMRTFの活性化を介してガン悪性化に寄与していることを報告している (Mol. Cancer Res. 2018)。


 ECMは結合組織を構成する主要なタンパク質であり、組織が損傷を受けた際はまずコラーゲンなどのECMが大量に産生されることで傷が埋められる。しかし、慢性的な炎症などによりECMが過剰に産生されると、臓器の硬化や機能不全が引き起される。これを線維化と呼び、肝硬変や間質性肺炎、腎線維化などがそれにあたる。コラーゲンの産生もまたMRTFによる制御を受けており、MRTFの活性を阻害することで線維化を抑制できる可能性がある。現在、組織線維化におけるT?4-MRTFシグナルの役割に注目し解析を行っている。


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