研究内容
新規抗がんリードの開発
血管新生阻害
固形がんは、その爆発的な増殖を支えるのに必要となる酸素や栄養分を、既存の血管から新たな血管をがん組織まで形成することで得ています。 この新たに血管を作る現象を「血管新生」と呼びます。血管新生なしでは固形がんは2ミリ以上の大きさには成長できず、 人の生命を脅かすことはないと言われています。
一方で、血管新生は、通常、発生時や創傷治癒時など特定の場面でしか起こらないため、血管網の完成した個体では必要ではありません。 したがって、血管新生を阻害する物質は、正常組織には影響を与えずに、がんを兵糧攻めにしてその増大を抑える効果が期待できます。 また、がん細胞の遊走や転移は新生された血管を介して起こるため、このようながんの悪性化を防ぐにも効果が高いと考えられます。
実際に、血管新生を標的とした薬剤が開発され上市されており、血管新生阻害によって制がん効果が得られることは認められています。 しかし、これらの薬剤はいずれも抗体医薬品であり、経口では効果が出ず静脈内に投与する必要があります。 また、VEGFと呼ばれる、がん細胞が新しい血管を伸ばすように働きかける誘引物質をピンポイントに抑制する作用のため、 VEGF以外のシグナルによる血管新生は防ぐことができません。
当研究室では、血管新生が起こる際の全てのステップにおいて重要な働きをしている血管内皮細胞に注目しており、 血管内皮細胞の細胞死ではなく、その増殖に対する阻害活性を示す化合物を探索しています。
これまでの抗がん剤は、がん細胞を殺すことを主作用としてきました。ところが、がん細胞も元々は自己の細胞であるため、 正常細胞との見極めが難しく、殺細胞性の抗がん剤は正常組織をも傷つけ脱毛や消化管障害などの副作用を引き起こします。 我々が理想としている血管内皮細胞特異的な増殖抑制剤は、がん細胞を標的としない副作用のない新規抗がんリードの開発に繋がることが期待できます。
我々は、海洋真菌の培養上清から見出した血管内皮細胞選択的な生育阻害物質が、VEGFに応答した血管内皮細胞の遊走?浸潤や管腔形成をも阻害することを突き止めています(阪大との共同研究)。現在、本活性化合物について、立体異性体を含めた種々の類縁体を合成し、構造活性相関の検討を行っています。
細胞接着阻害
がんの血行性転移は、がん病巣(原発巣)において①上皮間葉転換を起こしたがん細胞が、②血管腔内へと浸潤して血流に乗り、 ③転移先の血管内皮細胞へと接着後、血管腔外へと浸潤し、④間葉上皮転換後に新たながん病巣(転移巣)を形成する、というプロセスを踏みます。 したがって、外科的にがん病巣を完璧に除去できたとしても、その時点でがん細胞が血流に乗ってしまっている可能性を否定できず、がん転移のリスクが付きまといます。 そのため、外科手術後にも殺細胞作用を有する抗がん剤による化学療法が不可欠であり、つらい副作用が問題となっています。
当研究室では、血行性転移における血流中のがん細胞が血管内皮細胞に接着するステップに着目しました。 すなわち、がん細胞を殺すのではなく、細胞間接着という現象を阻害することで、がん転移を抑制する戦略です。 現在、当研究室で保有している天然資源抽出エキスライブラリーからスクリーニングを経て、毒性を持たない細胞接着阻害化合物の探索を進めています。